太田隆生 写真展
Takao Ohta Photo Exhibition
さめないスープ
「さめないスープ」その言葉がよぎったのは、プラハ滞在の合間でのこと。
グヤーシュ(パプリカのスープ)を食べ終え、ひと息ついていた。
パァッパァッパッ、パァッパァッープッ…アコーディオン?モーツァルトですか…?
窓の外から聞こえる軽やかな音に誘われ、街を散策しようと部屋を出た。
やわらかな陽光が石畳に反射して輝いている。
壁面にはたくさんの張り紙が…コンサートのチラシだ。
さすが音楽のメッカ。
教会や市民会館など、あらゆる場所で音楽を楽しめるのはプラハならではだ。
ふと見上げれば整然と並ぶ窓が目に入ってくる。
まるで楽譜のようだ…そう感じるのは、そこ此処から聴こえてくるクラッシック音楽のせいかもしれない。
モーツァルト気分で赴く向くままに歩けば、旧市街広場にでた。
タイムスリップしたかの様な錯覚を覚える…中世ヨーロッパの雰囲気を残す街並み。
この街には、ロマネスクから近代に至るまで様々な時代の建築様式の建物が修繕を重ね、現在もなお残っている。
隣り合う建物でも全く雰囲気が違う。
楽器を奏でる人々を横目に再び歩き出した。
どこまでも続くフォトジェニックな街並みにただ圧倒される。
時間が無いのが残念でならない。
裏道に入りキョロキョロしていたら、上から声がする…ハイ、ヘイ?…見上げるとおじさんが手を振っていた。
僕の肩を指差している…カメラか?…大きなカメラが珍しかったのかもしれない…。
カメラを向けると笑顔で答えてくれた…写真を撮りながら…ふと、テーブルの上のスープ皿、齧りかけのパンが頭に浮かんだ。
僕が無類のスープ好きだからかもしれないし、おじさんの人懐こい顔が部屋の中まで連想させたのかもしれない。
あぁ、スープが飲みたい…頭の中で、冷めたスープを温め直す。
冷めないスープがあればいいのに、そう思いながら「冷めないスープ」なんてものは無いと思いなおす。
でも、火にかけることで「温かなスープ」としてよみがえる。
そう思いながら、ここまで来る時に見かけた修復作業中の大工さん達を思い出した。
ひと手間をかけ再生させる行為が、この街…プラハに似ている。
いろんなデザインの建物が残り得たのは、それぞれの時代の価値観、多様性を尊重しながら修繕し保ち続けてきたからだろう。
大国に蹂躙されながらも、奇跡的に崩壊を免れた歴史を持つ街だからこそ、そういうことが可能だったのかもしれない。
または、保守的なのに好奇心旺盛の国民性なのか…。
温かいスープを飲み、ホッとするひと時を過ごせる場を保てるよう、建物を修復、再生してきたのだろう。
この街の人たちは、100年以上もの時をかけ、街全体で「さめないスープ」を作り出そうとしているのかもしれない。
それが、この街の魅力に繋がっているのだろう。
会期 : 2018 年 5 月 7 日 ( 月 ) ~ 5 月 31 日 ( 木 )
10:00~19:00 ( 定休日:土・日曜日 )
会場 : GARDE Gallery
東京都港区南青山 5-2-1 Alliance Bldg 4F 表参道駅 A4,A5 出口から徒歩約 1 分
Date : 2018.05.07(Mon) ~ 05.31(Thu)
Place : GARDE Gallery
Alliance Bldg 4F
5-2-1 Minami-Aoyama, Minato-ku, Tokyo
Opening hours : 10:00~19:00 (Monday to Friday)
Entrance fee : Free